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いよいよ特販リフォーム課のリフォーム営業マンとして本格的に業務がスタートしました。

そんな中、何とか初の見積り依頼を受けて外壁と屋根のリフォーム工事の商談に行きました。

今回はその時に起こった感慨深い思い出話しを綴ります。


少しづつ馴染み始めてきた新会社特販リフォーム課での日々

特販リフォーム課へ着任してから約1カ月半が経ち、ようやく私も佐藤も、この特販課に馴染み始めていました。

当時の特販リフォーム課は、続木課長や田岡係長を筆頭に、かなり強烈なキャラクターが揃っていました。

なので当初は一体どうなることやら、、

と悩まされましたが、、






存在感のある田岡係長と仲良くなったこともあって、他の課員たちとも徐々に打ち解けていきました。

なので、少しは働きやすい環境になってきたのですが、、、

なによりも、私が直面した最大の問題点は、


お客さんからの反響が全く無いということでした。


特販リフォーム課は、大手ハウスメーカーの我が社が今までに


累積何万棟も建ててきた自社の住宅以外の建物を受注する課な訳です。


これは営業マンの私としては致命的な問題です。


グローバル化が急速に進んだ現在であれば、インターネットやSNS等により、集客方法もいろいろと戦略を立てられる訳ですが。。。

当時は、インターネットもSNSもほぼ皆無でしたし、スマホなんかも当然無い環境です。。

当時のトータルイノベーション株式会社では、


総売上金額の約98%が自社の住宅のリフォーム工事の売上


となっていました。

そのため、それ以外のリフォーム工事を受注しなければならない私と佐藤だけが、大規模人事異動で同時期に異動した同期たちの中で、最低の成績となってしまっていました。

同社のリフォーム営業マンの半数以上は、約2カ月で10件以上の契約を獲得しており、中には1000万円を超える高額契約をあげているリフォーム営業も結構いて、私と佐藤は完全にカヤの外といった状態でした。

全く反響が無い中で集客方法を模索する日々が続く

続木課長や田岡係長は、会社上層部(例えば支店長や取締役など)からのお客様紹介カードをもらって顧客を獲得したり、過去の自分のお客さんからの紹介など、自分の商談ネタに困っている様子は全くありませんでした。

冷血でイヤミな続木課長は、


「トラジロウも佐藤も、いい加減に何とかしないとヤバイぞ!君たちの同期で10件以上契約取ったり大型工事を受注してる人も一杯いるんだぞ!」


などと、常にプレッシャーをかけられ、、私と佐藤は次第に意気消沈していきました。。。

もちろん新築時代のお客さんや業者など、様々な繋がりはあっても、


今まで携わってきた自社の住宅リフォームは契約出来ない


、、、というあまりにも残酷で大きな縛りがあるため、完全に八方塞がりでした。。。

そうは言っても契約件数がゼロという訳にもいかないので、

私が2か月間で受注した契約は、実家のカギの交換¥35,000円の一件のみでした。

これってリフォーム工事か?、、というところではありますが、とりあえず契約件数がゼロでは無くなるので、無理やりお願いして実家のカギを交換させてもらいました。(ちなみに私がお金を払いました。。。)

佐藤は実家の給湯器を交換して契約を取っていました。。。

そんな状況だったため、特販リフォーム課会議では、私と佐藤を続木課長は集中攻撃してきました。

佐藤いわく、


「続木課長はネタがいっぱいあるんだから少しは俺らに回せってんだよ!」


と激怒してましたが、、

当然、続木課長に面と向かってそんなことを言える訳はなく。。。。

電話当番で早朝から待機していると一本の電話が、、

続木課長に、


「グループ会社や地域新聞にも特販リフォーム課の宣伝広告を載せてやってんだから朝一は電話にシガミついて電話反響を獲得してみろよ!」


、、と相変わらず強い口調で恫喝されたため、仕方なく毎朝早朝は佐藤と交代で電話の前に張り付いていることになりました。。。


かといって全く電話は鳴らず、、、

諦めかけていた私の当番の日、朝七時過ぎに電話が鳴りました。


「お電話有難うございます!トータルイノベーション特販リフォーム課でございます!」


と元気よく電話に出ると、すごく優しそうなオバ様の声で、


「すみません。ウチの外壁と屋根がもう古くて心配なので見積りに来てもらってもいいですか?」


、、と、いきなり外装工事の見積り依頼を獲得しました。

ちなみに外壁と屋根の外装工事パックは、当時まだリフォームに慣れていなかった私にとっては大変オイシイ話でした。

一般的にリフォームの営業は、営業と現場監督を兼ねることが多く、建物内部をいろいろとイジル改装工事の場合、もちろん受注金額は上がりますが、あらゆる意味で難易度が高くなり、クレームや利益率大幅ダウン等で、契約した後に地獄を見る可能性もありました。

なので、外壁と屋根のリフォームだと手間が掛からないうえに契約金額が大きいので、まだ慣れていない当時の私としては大変ありがたかった訳です。


とりあえずは電話で可能な範囲まで要望を聞いて、翌日にお客様宅へ訪問することとなりました。

現地調査と概算見積りで4時間以上にも及ぶ商談に!?

翌日、今回の依頼者、北川様(仮名)宅へ訪問した私は、熱烈な歓迎を受け、まずは居間に通されました。


<北川奥様>
「トラジロウさんとおっしゃるのね!本当に今日は有難うございます!もうウチは古いでしょう。雨漏りとか、もし何かあったら困っちゃうんで、この際全部直しちゃおうってことになったんですよ!」



、、と、あたかも契約することは決まっているかのような感じで話して来ました。


<私、>
「こちらこそ、ご丁寧に有難うございます。大変恐縮でございます。。まずは外壁の採寸や写真など、現地調査をさせて頂いてもよろしいですか?ひと通り終わりましたら概算の金額や、リフォーム内容のご説明をさせて頂きたいと思います。」



、、と言って約1時間近く、現地調査を行いました。

その後、調査結果を説明しながら、外壁や屋根をどのようにリフォームするのか、その場合は大体いくら位の値段で、工事期間はどのくらいか?などを丁寧に説明していきました。

北川様の家には、60才位のご主人と奥様がいましたが、2人とも大変感心して、深くうなずきながら熱心に私の話を聞いてくれました。

その後の展開で、せっかくだからキッチンやお風呂他いろいろリフォームしたいということになり、外装工事が約300万と、キッチンやお風呂など水周り工事も追加されて、合計で600万円くらいの概算見積り金額となりました。

もちろん私も慣れていなかったのと、値引きや予備費等も考慮して、少々高めの金額となってはいましたが、、

<私、>
「一応、本日お伺いしましたご要望で見積りますと600万くらいになりますが、、、いかがでしょうか?」


、、と尋ねてみると、ご夫婦顔を合わせた後にっこり笑って、、


<北川様夫婦>
「トラジロウさん。それでお願します!」


と即答でした。。。

さらに、


<北川ご主人>
「ああ、、そうだ!印鑑要りますよね?、、お金は、?、今日はいくらかお渡しした方がよろしいですか?」


、、と、何の迷いも無くスムーズに進み過ぎる状況に、逆に戸惑った私は、


<私、>
「いやっ、、、。 とりあえず本日は、、現地調査と概算見積りの掲示ですから。。。これから戻りまして正式に見積書を作成して、さらには外壁やキッチン等の仕様もしっかりとご説明出来るような資料を後日お持ちして、それをご確認の上契約の運びとなります。。ですので、本日はここまでで大丈夫です。」


と今後の流れを説明しました。

あまりにもスムーズに行き過ぎていて少々不安になった私は、北川夫婦に尋ねてみました。


<私、>
「ところで、、今回はなぜ弊社にリフォームの依頼をしてくださったんでしょか?。。。」


、、、すると奥様が、


<北川奥様>
「実は、私たちの息子が御社で大変お世話になっているんです。息子は今30才になるんですけど、
二十歳の時にバイクで事故を起こして、それからずっと車椅子なんです。。。




障害者雇用の理想と現実

<私、>
「、、ということは、私と同じ会社で働かれているのでしょうか?ちなみにどちらの部署なのでしょうか?」


<北川奥様>
「息子が働かせて頂いているのは、住宅関連事業部では無いです。建材事業部の事務系の仕事をしていますので、実際はトラジロウさんと顔を合わせることは無いと思います。」


<私、>
「そうなんですか。。。そのような経緯があったんですね。それで、弊社にお電話してくださったんですね?」


<北川奥様>
「息子が障害者になってから、いろいろと厳しい現実に直面しました。障害者枠で入社しても、ほとんどの会社でパワハラや差別などがあり、どの会社にも長く定着出来ませんでした。障害者枠入社の社員をまとめて汚い小部屋に詰め込んで嫌がらせをされたり、、、極端に給与等の条件が悪かったり。。。息子は身体の障害だけでなく、精神状態も次第に脅かされていきました。。そんな時に、御社の障害者雇用のことを知ったんです。御社は障害者を差別せず、障害者に対してきめ細かく配慮された障害者雇用制度を確立していました。そして、ようやく笑顔を取り戻した息子は、御社でずっと働きたいと言ってくれるようになったんです。」




今までの柔らかく穏やかな雰囲気とはまた違った、何かオーラのある強くよく通る声で話してくれました。


<私、>
「そうだったんですか。。。でも、良かったですね。現在、私の周りには障害者雇用で入社した人がおりませんので、一部上場の大手企業なのになぜなんだろう?と思ったことはありましたが。。。ちゃんと大手企業として取り組むべき課題に着手出来ていたんですね!」


<北川ご主人>
「今後とも本当によろしくお願い致します。もちろんリフォーム工事はお願い致します。」


という訳で、600万円ほどのリフォーム工事を契約出来そうということで少々ホットしましたが、なぜかこの契約の見えない重さをズッシリと感じていました。


一週間後を契約日と設定させて頂き、その日の商談を終えました。

障害者雇用とリフォーム契約。。その行方は!?

会社へ戻ってから、どうしたらいいか戸惑いました。。。

なんせ、、今まで鍵の交換の見積り(そんなの見積りとは言えませんが。。)しか作ったことが無かったので、呆然としていました。。すると。。


「トラちゃん、オメデトウ!大きな改装工事が決まりそうなんだってね?!見積りとか手伝うよ!」


、、と、強面だけど、なぜか私にはやさしい田岡係長が手伝ってくれて、何とか一週間後の契約に臨む資料一式を作成することが出来ました。


そして迎えた一週間後の契約日当日。


私の初の大型改装工事の契約を心配して、田岡係長が同行してくれました。


北川邸のドアをノックすると、しばらく反応がありません。。。


少々嫌な感じがしましたが、、今度はドアホンも鳴らしました。。




、、しかし誰も出て来ません。。家の中に物音は感じられません。。。


「トラちゃん、大丈夫?。。居ないんじゃないの?。。。」


心配そうに私を見つめる田岡係長。。。




、、すると突然ドアが開きました。


そこには、前回とは打って変わった様子のご主人の姿がありました。。。


以前の優しく穏やかな様子は無く、無言のまま淡々と家の中に導かれました。。。


居間には奥様が座っていましたが、、思いつめた様子で酷くヤツレテしまっていました。


明かに何か事情があるとしか思えない重苦しい雰囲気に、、田岡係長が、


<田岡係長>
「本日はご契約誠に有難うございます。トラジロウの上司の田岡でございます。息子様も我々と同じ会社で働かれていると聞きまして大きなご縁を感じるとともに、より一層気を引き締めて頑張らせて頂く所存でございます。」




、、しばらく沈黙があり、得も言われぬ重苦しい雰囲気が1分ほど続きました。。。




しばらくしてようやくご主人が重い口を開きました。




<北川ご主人>
「五日前、、息子は御社から正式に解雇通告を受けました。。もう息子と御社との関係はありません。。。」




あまりの衝撃的な発言に、私と田岡係長は言葉を失いました。。。。


しかし、、、どうすることも出来ません。

私は、北川夫婦に語りかけました。


<私、>
「本当に。。。大変申し訳ありません。。。と言いますか、、、何と言ったらいいか、、言葉が見つかりません。。。一体、、なぜ、、、」




、、とてもリフォーム工事の契約が出来る状態ではありませんでした。


田岡係長も空気を読んで私の顔を見てちょっと目配せをしました。


作ってきた資料一式を広げることも無く、カバンに詰め込み立ち上がろうとした瞬間、


ご主人が話しかけてきました。




<北川ご主人>
「今回のリフォーム工事は予定通り御社にお願いします。」




あまりの意外な発言に、その瞬間、私も田岡係長も思考回路が完全にパニック状態でした。


<私、>
「北川様、、、本当にお任せ頂いてよろしいのでしょうか?弊社で働いて頂いておりました息子様とのご縁があってのリフォーム工事と認識致しておりましたため、正直、、本当にお任せ頂いてよろしいものか戸惑ってしまっている状態でございます。。。」


すると、うつむいたまま今まで何も語らなかった奥様が、静かに重い口を開きました


<北川奥様>
「私たちは先日、丁寧に対応してくださるトラジロウさんの人柄や言動を見て、この人にならお願いしたいと思って契約を約束したんです。息子が御社で働かせて頂いていたということは、もちろん大きなプラス要因ですが、それだけが決定要因ではありません。もちろん私たちは大変ショックを受けました。しかし息子がリストラになったのは誰のせいでもありません。

私たちは障害者雇用といった側面ではずっと裏切られ続けて来ました。だからこそ私たちは人を恨んだり、羨んだり、そして裏切ったりしないと決めているんです。

誠実にお話しを聞いて頂き、親身になって対応してくださったトラジロウさんに我家のリフォームをお願いします。」




、、あまりの意外な展開に、私も田岡係長も、奥様の深く澄んだ瞳の奥に吸い込まれていくような感覚でした。



初の大型改装工事契約を受注出来た私は、契約の喜びよりも、奥様の放った重い言葉がしばらくの間ずっと脳裏に焼き付いていました。。


その後、リフォーム工事は無事完了しましたが、最終的に障害者の息子さんと直接お会いする機会はありませんでした。


今でもあの時のことはハッキリと覚えています。


障害者雇用は、国からの助成金が切れる2年前後のタイミングでリストラされたり、何かと理由を付けて差別等の迫害を受けているケースが、実際は相当数あるようです。

私は過去に2社の一部上場大手企業で働いていましたので、障害者雇用で入社した人と何人か接したことがあります。

今回の北川様に関しては、契約後は、一切息子さんの雇用のことや弊社のことには触れなかったので、具体的にどういった状況で解雇通告を受けたのかは最後までわかりませんでした。


でも、、もし私が当時の北川さんの立場だったら、、息子が解雇された会社にリフォーム工事を依頼出来ただろうか?




次回は新展開>>第14話独裁国家東京第三営業所へ続きます!







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