こんにちわ。トラジロウです!
前回>>第54話からの続きです。
わずかな気の緩みから大変なことになってしまいました。
深野係長がキッチンの数量を2セットと打ち間違えていました。
理由はどうであれ、当然のことながらキッチンの1セット分220万円を減額修正しなければなりません。
責任を感じて深野係長の顔は真っ青で死人のような形相になっていました。
脆くも崩れ去った信頼関係
前回54話の第3章
【住宅業界の見積りと報奨金の仕組み】
(覚えてない人は再度読み返してください)
の中でザックリと説明しましたが、一般的に
リフォーム工事の積算は客出し価格を先に決定します。
今回の松本邸であれば2800万円という金額は先に決定しているわけです。
その後、見積書の各種項目に詳細金額などを割振っていきます。
なのでキッチンが2セットと打ち間違えてしまってはいますが、、
合計金額が2800万円なら問題ないのです。
要するに、
キッチン商品代200万円と工事費400万で合計600万円
の見積りがあったとして、それを
キッチン400万円と工事費200万円
に書き変えても、
どちらも合計は600万円なので問題なしというわけです。
しかしお客様にそんな事情は全く理解出来ないし言えません。。
キッチンの数量が間違っていますから1セット分の220万円が減額になると考えるのは当然です。
さらに54話で解説した通り我々の歩合給(報奨金)は規定粗利率から8%下がるとカットになります。
キッチンを減額すると利益率は6%下がってしまいます。
そのため、あと僅か2%ダウンしたら我々の歩合給(約120万円ずつ)はもらえなくなります。
これだけの超難物件ですから利益率2%程度は確実に下がります。
松本邸は予備費を一切みていないので間違いなくタダ働きになるでしょう。
(普通はある程度予備費を取っておきます)
真っ青な顔で固まったままの我々に松本息子様が話しかけてきました。
<松本息子>
「二人ともどうしたんですか?
とりあえず間違いを修正して正しい金額にしてください。」
これ以上黙っているわけにもいかない我々でしたが、、
深野係長は放心状態で言葉を発する気力など全く残っていない様子でした。
私も弁明の言葉が全く頭に浮かんできませんでした。
タダ働きか?解約で全て終わりか?
不信に思ったのか松本息子様が、
<松本息子>
「どうしたんですか?
二人とも深刻な顔をして黙りこくって?
まさか、、そちらの完全な間違いなのに減額出来ないってことは無いですよね?」
その声色はかつてないほど威圧的に感じました。
まあ、、松本息子様としてはこっちがミスしたのに直ちに謝罪して修正しないため気分が悪いわけです。
かといって先に書いたように減額して2580万円で契約したら我々はタダ働き確定です。
しかし減額せずに2800万円のまま契約を迫ればこの契約は白紙になってしまうでしょう。
今思えば、、
松本一家の私への信頼が大変アツイことで油断してしまったのかもしれません。
孫娘のことばかり考えていて仕事に集中出来ていなかったのも事実です。
この会社に転職してきてからあれほど頑張ってきたのに、、
肝心なところで墓穴を掘るなんて自業自得としかいいようがありません。
タダ働きか?解約で全て終了か?
営業所のことも考えると解約は絶対ヤバイ。。
でもこんな難物件を担当して一銭も貰えなかったら。。
頭の中であらゆることがグルグル回っていました。
そうこうしていると、
<松本息子>
「っていうか、、いったい何なんですか?!
ちゃんと説明してくださいよ!
何で黙ってるんですか?
だいたいキッチンの数量を2セットなんてどういう見積りしてるんですか?
今まで御社をすごく信頼してきたのに。。
だから仮契約なのにトラジロウさんの希望とおり140万円もの大金を無理して振り込んだんです!」
う~ん。。ヤバイ、完全に怒ってる。。
絶対絶命の大ピンチ。。
しかし減額して契約するわけにはいきません。
私はふとあることを思い出しました。
それはこの会社に転職当時、営業心理術研修で学んだことです。
どんな場面でも、どんな相手でも、
真実で向き合えば大抵のことは解決できる
ただしそれは営業心理術を用いた様々なテクニックを必要としていました。
しかしその時の私はそんなことはどうでもよくて、、
とにかく松本様に真実で向き合ってみようと素直に思ったのです。
それがどんな結果になろうとも。。
真実が最強の営業ツール
私は松本息子様の顔を正面からしっかりと見つめました。
<私、>
「松本様。。大変不愉快な思いをさせて誠に申し訳ありません。
今回の件に関しまして間違ってしまった経緯をお話しさせてください。
今まで本当に信頼を寄せて頂き、約束通り仮契約金140万円お振り込み頂いたこと大変感謝しております。
だからこそ私は松本様ご一家に間違ってしまった経緯を全てお話しさせて頂きたいのです。
この期に及んで何かごまかそうとか、、
そんなことは一切考えておりません。」
私のまっすぐな振る舞いや今まで誠実に対応してきたシーンを思い出してくれたのか、、
そこのところは何とも言えませんが、、
松本息子様は少々落ち着きを取り戻した様子でした。
<松本息子>
「まあ、、わかりました。
今までトラジロウさんには誠心誠意対応してもらったとは思ってます。
しかしキッチン220万円が2セットで440万円と見積書に記載されているのを見てかなりショックを受けました。
そんなイイ加減なんだってね。」
<私、>
「おっしゃる通りでございます。
本当に大変申し訳ございません。
松本様ご一家から信頼を失ってしまうほど心苦しく残念なことはございません!
確かにキッチンの数量は間違えておりました。
しかし今回の見積総額2800万円は間違っておりません。」
<松本息子>
「何を言ってるんですか?!
キッチンの数量を間違えているのに合計金額は間違っていないなんて。。
全く理解できません!
だっておかしいじゃないですか?
キッチン1セット分の220万円は減額してください!」
私は松本息子様の目を見つめながら続けました。
<私、>
「実はリフォーム工事の見積りは統一されたやり方で行っております。
結論から言いますと見積書の総額は最初から決っております。
今回の松本様邸に関してですが、
人件費と資材費、そしてその他経費を算出して原価総計を出します。
そこにリフォーム会社で決められた利益率を掛けて見積書金額を決定します。
そうして算出された見積書金額が今回の2800万円となります。
その後、見積書の各詳細項目と割り振り金額を決めて入力していきますが総額2800万円は変わらないようにします。」
その後も必死で弁明を続ける私。
実に15分以上いろいろと見積書の金額を積算する流れなどについて説明しました。
<松本息子>
「私も会社でいろいろな部署を経験しているので原価積算などある程度は理解しているつもりです。
しかし、、う~ん。。」
、と納得のいかない様子の松本息子様。
そうこうしていると、
「ちょっとオレに話をさせてくれ!」
、と、突然ベッドに横になっていたお父様が険しい表情で起き上がりました。
次回>>第56話に続きます。
※ベンチャー企業奮闘記は毎週月曜日更新です!