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こんにちわ。トラジロウです!

前回>>第55話からの続きです。

見積書のミスが発覚して大ピンチとなりましたが、

私は正直に全てを包み隠さず松本一家に語りました。

そうは言っても松本息子様は納得がいかない様子。

すると今までベッドに横になって一言も発しなかったお父様が突然起き上がり、


「ちょっとオレに話をさせてくれ!」




突然言い放たれたお父様の言葉

お父様の突然の発言に我々一同は大変驚きました。

今回のリフォーム工事はこのお父様の家(実家)のリフォームなわけですが、

お父様は脳梗塞を患っていてあまり話すことが出来ない状態でした。

そのため隣りに住んでいる松本息子様が窓口となってここまで進行してきました。

なので、お父様が話をしてくるなんて夢にも思っていませんでした。




<松本父様>

「分かった!これ以上説明は不要だ!」




、と、お父様は短く言い放ちました。


しかし、、


その意味が読み取れず私は戸惑いました。


どういう意味なんだろう。。


そんないい加減な会社とは契約出来ないってことか?




しばらく沈黙が続きました。




しかし黙っているわけにもいかず、


<私、>
「お父様、、申し訳ございません。。
これ以上説明は不要とおっしゃいましたが、、
弊社と契約出来ないということなのでしょうか?」


松本息子様も突然のお父様の発言に驚いていたようでしたが、


<松本息子>
「オヤジ!どうしたんだよ!
突然そんなこと言って!
退院してから全然しゃべって無かったけど、、
そんなに無理して平気なのかよ!」



お父様の体調はあまり良い状態ではありません。

無理に起き上がって発言をしたため再び床に伏してしまいました。

相当無理をしたのでしょう。。

そのあとメチャクチャ咳き込んでしまい大変辛そうでした。


<松本息子>
「オイッ!、、オヤジ!
大丈夫か?!
無理しちゃダメだって医者からサンザン言われたろ!
無理に起き上がって大きい声なんか出すから。。」


その後も咳き込んだままかなり重篤な状態に。。

私はその時あらゆることが頭の中を交錯していました。


お父様怒ってるし俺らのセイで体調悪くしちゃったし、、


あ~あ、、なんでこうなっちゃったかなあ。。


隣の深野係長もなすすべもなく。。


激しく咳き込んで瀕死状態のお父様を呆然と見つめていました。


すると、


<松本息子>
「絶対安静なのに興奮させるからこんな状態になっちゃったじゃないですか!
もう帰ってください!」


反論など出来るわけもなく、、


私と深野係長は静かに松本実家邸を後にしました。

つわものどもが夢のあと

松本邸を逃げるように出た私と深野係長は車の中に乗り込みました。

そして営業所に向かって走り出しました。

しばらく私たちは何か言葉を発する気力もなく、、

ただ黙ってフロントガラス越しに映る景色を眺めていました。




今までこんなに頑張ってきて、、




さまざまな紆余曲折を乗り越えて、、




ようやく一筋の光を見出したと思ってたのに、、




しばらくして深野係長が細い声で、


<深野係長>
「、つわものどもが夢の跡。。
オレのミスで、、ホントに申し訳ない。。」


【つわものどもが夢の跡】


謝罪の冒頭で深野係長が微かに呟いたその言葉を今でも鮮明に覚えています。

われわれ建築業界の人間はあまり文学とか縁がありません。

私も苦手でしたが、、

思わず深野係長が呟いたこの言葉は、



誠心誠意必死で頑張っても人生は儚いものだ

というニュアンス的な慣用表現です。

それだけ頭の中は絶望感で一杯だったんだと思います。

もちろん私も同じ気持ちでしたが。。


<深野係長>
「、、どうしよう。。
営業所の達成がまたしても却下になっちゃう。。
ホント、、俺の責任だ。。。」


<私、>
「自分も同じです。。
今回は社長や総務部長とも直接話しちゃってるんで。。
すごい気まずいです。
、、結局この会社辞めて転職かあ。。」


お互い出るのは溜息ばかり。

そうこうしているうちに営業所に到着しました。

しかし気が付くと私は営業所の前を通り越していました。

深野係長がふと私の顔を見て、


<深野係長>
「トラちゃん、わかるよ。。
営業所を通り越したのは帰りたくないってことだよね?
俺も営業所に戻る気がしない、戻りたくない。。
今日はこのまま直帰しよう。」


ということで沈んだ気持ちのまま私たちは直帰しました。

絶望の淵から一夜明けて

住宅業界では直行・直帰はよくあることですが、

昨日直帰してしまったので一夜明けた今日は定時に出社しないといけません。

絶対そうだというわけではありませんが、、

大型契約を逃してしまったという後ろめたさから朝一番に出社していました。

深野係長も私と同じく早くに出社してきました。


そんな二人の顔色は最悪な状態でした。。


私は昨夜、一睡も出来ませんでした。

深野係長も昨晩は全く眠れなかったようでした。

そして長井所長に私と深野係長は呼ばれました。


<長井所長>
「オイッ!、トラと深野係長!
どういうことだ?!
昨日の夜、本社に電話が入ったぞ!
例の松本さんの息子から!」


<私、>
「えっ!?、、息子さんから?
それって。。」


<長井所長>
「お父さんの体調が悪くなってしまったから契約は白紙にしてくれって。
なぜそんな重要なことを報告しなかったんだ!
ヤバイッてわかってたんだろ!」




すると深野係長が突然声を上げました。




<深野係長>
「長井所長!大変申し訳ありません。
全ては私が悪いんです。
見積りの記載ミスをしてしまい松本様の信頼を失墜させてしまいました。
せっかくトラちゃんが今まで頑張って積み重ねてきたものを一瞬で壊してしまいました。
ホントに申し訳ありません。」




しばらく長井所長は黙って一点を見つめていました。




おかしいなあ、、


いつもなら絶対罵倒されるんだけど。。


長井所長は不思議と我々を罵倒することはありませんでした。

しかし最後は厳しい表情で私を睨むと、


<長井所長>
「お前らに今言うことは無いわっ!
これからの身の振り方でも考えておけよ!」


といってその場から立ち去っていきました。

もうここまで来たら全てがどうでもイイ感じでした。

私はそのまま午前中は事務処理をしているフリをしながら


退職願いを書いていました。


今度こそこんな会社辞めてやる!

縁が無いってこういうコトを言うんだよな。

次の転職先で絶対に華を咲かせてやる!


こっそりと退職願いを書き上げたころ、

ちょうど昼休みの時間帯になっていました。

私は個人達成の時にお世話になった上田社員と一緒に昼飯を食べにいきました。


<私、>
「上田さん。あの時は上田さんのお客さんをアテガッてもらって、、
私の個人達成のためにいろいろお世話になりホントにありがとうございました。
実は。。」


私は今回の松本邸の話しを全て上田営業マンに話しました。

そしてこの会社を退職して転職する意向を伝えました。


<上田営業マン>
「あの時トラジロウさんを助けたのはトラジロウさんの人柄に惹かれたからです。
だから悪いとか思わないでください。
でも、、トラさんが辞めちゃうのはすごく残念です。
自分こそいろいろ教わりたかったです。」


そんな会話をしていると、

突然私の携帯が鳴りました。


誰だろう。。


すかさず私は携帯電話の画面を見ました。


すると、、ナントそこには


【松本息子様】


と表示されていました。

次回>>第57話に続きます。

※ベンチャー企業奮闘記は毎週月曜日更新です!









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